アトピー性皮膚炎とは

アトピー性皮膚炎のイメージ写真

アトピー性皮膚炎とは、皮膚バリア機能低下に伴う乾燥やアレルギー性の炎症、痒みが関与し、多くが増悪・軽快を繰り返す病気です。
その他、遺伝的な体質や様々な環境因子、精神神経的な要素なども関与します。
患者の多くは、"アトピー素因"をもちます。アトピー素因とは、気管支ぜんそくやアレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎のうちいずれか、または複数を自分自身や家族がもっていることです。

病態

アトピー性皮膚炎は、主に体の最外層にある角層や表皮の異常に伴う皮膚の過敏や免疫・アレルギー学的関与で炎症や痒みが出現します。
これらに生活環境やストレスなどが悪化因子となり病像を形成しています。

1. 角層の異常

アトピー性皮膚炎では、角質細胞間脂質の主成分の一つであるセラミド含有率の低下により水分の保持能力が低いとされています。さらに、フィラグリン遺伝子という皮膚のバリア機能に重要な遺伝子に変異(アトピー性皮膚炎では約3割に変異あり)があることがわかっています。

2. 表皮の異常

表皮細胞の間にはタイトジャンクションと呼ばれる細胞間接着構造がありアトピー性皮膚炎ではその形成異常が認められ、皮膚が乾燥しやすい状態になっています。
また、皮膚バリア機能が低下しダニやほこりなどの抗原(アレルゲン)の皮膚への侵入を容易にすることで、アレルギー性の炎症を生じます。

3. かゆみ

アトピー性皮膚炎の病変部からは、様々な痒みを生じる物質が放出され、痒みが誘発されます。
また、乾燥や炎症に伴い痒みに関与する知覚神経が皮膚表面近くにまで伸びることで、感覚過敏が生じています。

症状

皮膚の乾燥と左右対称性の分布を示す湿疹病変があり、年齢により症状の出やすい場所が異なります。
皮膚症状は、赤い斑や軽い盛り上がり、ジクジクした赤い斑、かさぶたなどの急性病変や、ごわごわした皮膚やしこりなどの慢性病変が混在しています。
その他、頸部のさざ波様の色素沈着やヘルトゲ徴候という眉毛外側1/3が薄くなった状態、皮膚をこすると白くなる、など特徴的な症状があります。

好発部位

乳児期 頭、顔にはじまりしばしば体や四肢に下降
幼小児期 頸部、四肢屈曲部
思春期・成人期 上半身(顔、頸、胸、背)に症状が強い傾向

合併症

眼症状(白内障、網膜剝離など)や水いぼ、とびひ、ヘルペスウイルス感染症などがあります。

検査

アレルギー検査などの血液検査を行います。アレルギー検査は、一度に検査できるのは13項目までと健康保険で決まっています。当院では、39個を同時に測定できるView39を検査可能です
(費用:健康保険が適用でき、診察料含めて3割負担で約6,000円)。
アトピー性皮膚炎の病気の勢いを見る検査(血清TARC)もあります。

診断について

  1. 瘙痒
  2. 特徴的皮疹と分布
  3. 慢性・反復性経過

という診断基準があります。

臨床経過

乳児期あるいは幼児期から発症し、小児期に治るか、あるいは治ることなく再発を繰り返しながら成人まで症状が継続する場合があります。また、一旦落ち着いていた症状が成人になり様々な生活環境の変化やストレスなどで再燃することもしばしば経験します。

治療

治療の最終目標(ゴール)は、症状がないか、あっても軽微で、日常生活に支障がなく、薬物療法もあまり必要としない状態に到達し、それを維持することです。 また、このレベルに到達しない場合でも、症状が軽微ないし軽度で、日常生活に支障をきたすような急な悪化がおこらない状態を維持することを目標としています。

治療は

  1. 薬物療法
  2. 皮膚の生理学的異常に対する外用療法スキンケア
  3. 悪化因子の検索と対策

の3点が基本になります。

局所療法

外用療法

抗炎症外用薬として第一選択薬はステロイド外用薬になりますが、近年、タクロリムス軟膏やデルゴシチニブ軟膏、モイゼルト軟膏など非ステロイド外用薬が使用できます。

1. ステロイド

皮膚症状の重症度や皮膚症状の出ている部位(体や顔、四肢など)に合わせて適切な強さを選択し、病変の性状(乾いているか、ジクジクしているかなど)により、軟膏やクリーム、ローションなどを使い分けます。使い方によっては、皮膚が薄くなったり、血管が拡張したり、ニキビが出やすくなったりしますので、指導通りに塗っていただくことが大切です。

2. タクロリムス(プロトピック®)

免疫を抑制する薬剤で、体や手足にも有効ですが、特に顔や頸部に対して有効性が高い薬剤です。使用開始して数日間程ほてったり、ヒリヒリしたりすることがありますが、徐々に落ち着いていきます。

3. デルゴシチニブ(コレクチム®)

「JAK(ジャック)阻害薬(ジャック:ヤヌスキナーゼ)」と呼ばれる外用薬で、ステロイドやタクロリムスとは異なる作用機序を持ちます。アトピー性皮膚炎では、炎症や痒みなどを引き起こす信号を免疫細胞に送る「JAK(ジャック)/STAT(スタット)経路」と呼ばれるしくみが関わっていることがわかってきました。デルゴシチニブは、JAK/STAT経路を阻害することで、炎症や痒みなどのアトピー性皮膚炎の症状を改善します。また、皮膚のバリア機能を改善することもわかってきています。ステロイドやタクロリムス外用薬などで副作用を生じた患者にも有効です。

4. ジファミラスト(モイゼルト®)

「PDE(ホスホジエステラーゼ)4阻害薬」と呼ばれる外用薬で、ステロイドやタクロリムス、デルゴシチニブとは異なる作用機序を持ちます。PDE4は、炎症細胞において炎症を抑えるシグナルを分解して、炎症を増幅する酵素であり、アトピー性皮膚炎ではPDE4が増えていることが知られています。ジファミラストはPDE4を阻害することで、炎症を抑制するシグナルを上昇させて、アトピー性皮膚炎の炎症と痒みを改善します。また、皮膚のバリア機能を改善することもわかってきています。ステロイドやタクロリムス、デルゴシチニブ外用薬などで副作用を生じた患者にも有効です。

紫外線療法

紫外線治療は太陽光に含まれるUVA、UVB、UVC の各波長の紫外線のうち、皮膚治療に有効性が確認された中波紫外線の領域に含まれる非常に幅の狭い波長域を持った紫外線を照射して治療する方法です。
(311~312nm)ナローバンドUVBや(308nm)エキシマライトがあり、当院では局所療法としてエキシマライトを使用した治療を行っています。1回/1~2週の頻度で行います。

全身療法

1. 抗ヒスタミン薬

痒みの改善効果があり、主に眠気の少ない第二世代抗ヒスタミン薬を用います。痒いときのみ内服する間欠投与と、痒みの有無にかかわらず内服する連続投与がありますが、連続投与の方が痒み軽減の程度や痒みの再発抑制率も大きいことがわかっています。しかし、抗炎症外用薬を使用することなく抗ヒスタミン薬のみで治療することは推奨されていないため、抗炎症外用薬は併用していただきます。

2. シクロスポリン

免疫を抑制する薬で、使用中は腎障害や高血圧、感染症などに注意し定期的に薬剤の血中濃度を測定する必要があります。長期間の内服が必要な場合は、12週間の投与後に2週間以上の休薬期間をはさむ必要があります{適応となるのは 16 歳以上で既存治療で十分な効果が得られない最重症(強い炎症所見を伴う皮疹が体表面積の30%以上にみられる)の患者}(当院では行っておりません)。

3. 分子標的薬(生物学的製剤とJAK阻害薬)

アトピー性皮膚炎の炎症の原因となる特定のタンパク質を標的とする薬剤です。これらの薬剤は、従来の治療法よりも副作用が少ないとされています。また、これらの薬剤は「脱ステロイド」のための薬剤ではないため、本薬剤を使用中も抗炎症外用薬は継続して使用していただきます。

 分子標的薬(生物学的製剤とJAK阻害薬)のイメージ画像

A.生物学的製剤

a.デュピルマブ(デュピクセント®:ヒト型抗ヒトIL-4/13受容体モノクローナル抗体)(皮下注射)

アトピー性皮膚炎の病態の中心であるアレルギー炎症に関与するインターロイキン(IL)-4とIL-13の働きを抑えることで、アトピー性皮膚炎のかゆみや炎症を改善します。
本薬剤は2週間間隔で皮下注射を行いますが、自分で皮下注射が可能な場合は、自己注射を行うことも可能です。

適応患者について

ステロイド外用剤・プロトピック軟膏などの抗炎症外用剤を一定期間投与しても十分な効果が得られない6カ月以上のアトピー性皮膚炎の方

b.ネモリズマブ(ミチーガ®)(皮下注射)

アトピー性皮膚炎のかゆみの中心であるインターロイキン(IL)31をブロックする注射薬です。
本薬剤は4週間間隔で皮下注射を行いますが、自分で皮下注射が可能な場合は、自己注射を行うことも可能です。

適応患者について

ステロイド外用剤・タクロリムス軟膏などの抗炎症外用剤や抗ヒスタミン薬を一定期間投与しても十分な効果が得られない6歳以上のアトピー性皮膚炎の方

c.トラロキヌマブ(アドトラーザ®)(皮下注射)

アトピー性皮膚炎の病態の中心であるアレルギー炎症に関与するインターロイキン(IL)-13の働きを抑えることで、アトピー性皮膚炎のかゆみや炎症を改善します。
本薬剤は2週間間隔で皮下注射を行いますが、自分で皮下注射が可能な場合は、自己注射を行うことも可能です。

適応患者について

ステロイド外用剤・タクロリムス軟膏などの抗炎症外用剤や抗ヒスタミン薬を一定期間投与しても十分な効果が得られない15歳以上のアトピー性皮膚炎の方

d.レブリキズマブ(イブグリース®)(皮下注射)

アトピー性皮膚炎の病態の中心であるアレルギー炎症に関与するインターロイキン(IL)-13の働きを抑えることで、アトピー性皮膚炎のかゆみや炎症を改善します。
本薬剤は2週間間隔で皮下注射を行いますが、4週以降に症状が安定している場合は4週間隔で投与することができます。本薬剤は、現時点では自己注射を行うことはできません。

適応患者について

ステロイド外用剤・タクロリムス軟膏などの抗炎症外用剤や抗ヒスタミン薬を一定期間投与しても十分な効果が得られない12歳以上のアトピー性皮膚炎の方

B.JAK阻害薬

a.バリシチニブ(オルミエント®)(内服)

ヤヌスキナーゼ(JAK)ファミリーのうちJAK1とJAK2活性を選択的に阻害することで、アトピー性皮膚炎の症状の改善をもたらす薬剤です。特に、痒みの改善効果が早期に見られるのが特徴です。 しかし、JAK阻害作用により免疫反応が抑制されるため、感染症含め投与前に検査が必要です。

適応患者について

ステロイド外用剤・タクロリムス軟膏などの抗炎症外用剤や抗ヒスタミン薬を一定期間投与しても十分な効果が得られない(内服が可能な)2歳以上のアトピー性皮膚炎の方

b.ウパダシチニブ(リンヴォック®)(内服)

ヤヌスキナーゼ(JAK)ファミリーのうちJAK1を選択的に阻害することで、アトピー性皮膚炎の症状の改善をもたらす薬剤です。特に、痒みの改善効果が早期に見られるのが特徴です。しかし、JAK阻害作用により免疫反応が抑制されるため、感染症含め投与前に検査が必要です。

適応患者について

ステロイド外用剤・タクロリムス軟膏などの抗炎症外用剤や抗ヒスタミン薬を一定期間投与しても十分な効果が得られない12歳以上のアトピー性皮膚炎の方

c.アブロシチニブ(サイバインコ®)(内服)

ヤヌスキナーゼ(JAK)ファミリーのうちJAK1を選択的に阻害することで、アトピー性皮膚炎の症状の改善をもたらす薬剤です。特に、痒みの改善効果が早期に見られるのが特徴です。しかし、JAK阻害作用により免疫反応が抑制されるため、感染症含め投与前に検査が必要です。

適応患者について

ステロイド外用剤・タクロリムス軟膏などの抗炎症外用剤や抗ヒスタミン薬を一定期間投与しても十分な効果が得られない12歳以上のアトピー性皮膚炎の方

スキンケア

1. 保湿(外用)

人工皮脂膜の役割を果たすワセリンなどのエモリエント製剤と、ヒューメクタントを含むヘパリン類似物質や尿素などのモイスチャライザー製剤があり、これらを入浴直後に外用することが最も効果的です。

2. 入浴と洗浄

皮膚を清潔に保つことは、皮膚の生理的機能を維持するために重要です。お風呂は42℃以上で痒みが誘発されること、36~40℃が皮膚バリア機能回復の適切な温度であることから、おおむね38~40℃が良いとされています。石鹸・洗浄剤は使用して構いませんが、洗い方は界面活性剤が少ない固形石鹸を泡立てて手で洗うようし、ナイロンタオルなどを用いて過度に摩擦を加えないことが大切です。

悪化因子の検索と対策

悪化因子は、不規則な生活や食物・環境アレルゲン、ストレス、入浴時の洗浄方法など様々です。
悪化因子として考えられる食物・環境アレルゲンに関しては血液検査などを行い、対策を検討します。

最後に

アトピー性皮膚炎は小児例では自然に寛解する場合もありますが、多くの患者では強い痒みのため、生活の質(QOL)が非常に低下しています。 近年では、症状を寛解に導くだけでなく、その寛解を維持できる薬剤も登場してきているため、一度ご相談ください。